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門に手を掛けかけた途端、不意に響いた烏の声と羽音に反射的に手が離れた。
何を怯えているんだ、振り払うように大きく被りを振る。
この暗さは単に陽が落ちてきたからというだけだ、そう無理矢理にでも気を取り直す。
すみません、と声を掛けながら重い門を押し開ける。
声が門の立てる音に負けそうで、二度目の声は自然大きくなった。
返事のないままに内へ入ると、軋むような音で門が閉ざされる。
最後の、ダンッという低く重い音に、青年は思わず振り返った。
――もう、ここから出られないのではないか、一瞬そんな気になったのだ。
馬鹿な、ともう一度頭を振る。自分がひどく臆病になったような気がした。
すみません、そう声を張り上げようとして止める。
入ってみてわかったが、門から屋敷までは前庭を挟んで結構な距離がある。
ここから声を掛けても屋敷の者には届かないのかも知れない。
すぐに誰か出て来れるようにしているのなら、もうとっくに出て来ているだろう。
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