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「着物の下にシャツとは、無粋だよね」
言って、するりと男の手が青年の胸元を撫でる。
咄嗟のことで青年が動けずにいると、男は先ほどとは違う目を細めるだけの笑みで、そっと青年の頬へ手を添える。
「ねぇ、書生さん、ここにいては危ないよ。宿なら他を探した方がいい」
ね、と男は青年から離れる。最後にくすりと笑った唇が妙に艶かしく赤く見えた。
青年が我に返って声を掛けようと思った時には、既に男は目の前から姿を消していた。
その代わり、女中らしい女が青年の方へ歩いてくるのが目に入った。
「もし、何かお困りですか?」
女中は決して愛想がいいとはいえないが、丁寧な調子で青年にそう尋ねた。
さっきの男の言葉は気にはなったが、今からでは他に宿が見つかる訳もない。
青年は女中に今夜の宿を探していることを話し、屋敷に泊めてもらうことにした。
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