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「こんな場所ですから、苦労なさったでしょう? 村の人達は、外の人を嫌がるから」
最初の女中とは違う大柄な女中が、長い廊下を奥へ進んだ部屋へと青年を案内しながら言った。
どうやら、こちらの女中は愛想はあるが、随分と明け透けな性格のようだ。
廊下の冷えた板の感触が足の裏から伝って身震いしそうになる。部屋に着いた時、畳を暖かく感じたほどだ。
「夕餉の前に一度、初子様にご挨拶に伺いましょう。呼びに参りますので、それまでは部屋から出られませんよう……」
「初子様? こちらの奥方様ですか?」
「いえ、先代の当主の一粒種で、今はこの家の御当主でございます」
それでは、と女中が部屋を出て行ってしまってから、青年は門のところで会った男について訊きそびれてしまったのに気付いた。
当主の一人娘が家を継いだというのだから、あの男はこの家の本家筋の人間ではないのかも知れない。
どちらにしろ、女主人にお目通りがかなった際に明らかになるだろうと、青年はそれ以上は深く考えなかった。
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