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常しえの愛
迷子のように途方に暮れた顔で壁にもたれかかる夫に、ミュカは勤めて平静を装って駆け寄った。
こうなる事は解っていて、妾を支配し手を出させなかった。妾を守るつもりだったのか、ただの気まぐれか…ひっぱたいてでも聞いてやろうと思っていたから。
――私は、どこで間違ったんだ…?
妾の姿を見てそう呟く――いつものように声が頭の中に響くが、それが弱々しく聞こえた――と、ひどく苦しそうに眉根にしわを寄せて微笑み、血まみれの手を伸ばして頭を撫でてきた。
その姿に少し驚き、咄嗟に、何も間違っていないと答えてしまった。
「…少し休め。」
みるみる青ざめていく肌の色、浅く早くなる呼吸がヤィデルの状態をありありと示していた。
しょうもない男だ、酷い男だと口では言いながら、死の淵に追いやられた姿を目の当たりにすると、殊更に失いたくないほど愛しい存在になっていたことを思い知る。
「そなたはつくづく酷い男よのぅ。最後は妾を置いて逝くつもりか…?」
唇が、少し動く。
とうに失った声をひり出す様に、何かを伝えようとする。それが「すまない」と謝っているように感じて焦りのようなものが沸いてくる。
「そのような言葉、そなたには似合わぬ。」
もう少し可愛いげのある女なら…何度かそう思ったことはあったが、今は特にそう感じてしまう。
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