常しえの愛

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 虚ろに開かれた瞼が少しずつ落ちはじめた頃、一言寒いと訴える彼の額に口づけ頬を撫でながら赤い血が溢れる口に自らのそれを押し付けた。まるで赤い口紅を塗ったような艶を纏う唇が、それまで気丈な言葉を振るっていた口が嗚咽混じりの声で言う。 「……そなたさえ望むなら、」  うまく言葉にできなかった想いを吐露するように、愛しい男の足を貫いていた剣を引き抜いて囁いた。 「永遠に、そなたの傍に…」 ――そんな永遠、いらない…  どこにそんな力が残っていたのか、剣の切っ先が喉に触れるかどうかという所で剣を掴まれ奪われてしまった。  呆気に取られていると彼の手から急に力が抜け、そのまま腕が床に叩き付けられた音でミュカは我に返った。 「ヤィデル?ヤィデル!?妾を置いて逝くなと言うておろう!!」  すぐに手を取り上げて強く握り、何度も呼び掛けるが反応は無かった。眉根に寄ったシワは薄らぎ、苦痛に歪んだ表情はそれら全てから解放されたように弛緩し安らいでいるようにすら見えた。 「………………もう、痛くはないか…?」  やがて彼の名を叫ぶのを諦め、流れて滴る涙もそのままで愛おしげに彼の頬を数度撫でて、胸の中心に突き立った剣の柄に手をかけた。思ったよりすんなり抜けた剣を地べたに置き、まだ温もりの残る血をドレスの裾で拭って魔力で傷を塞いだ。  体を貫いていた剣の大半は魔力でできているのか体から引き抜いた瞬間に弾けて霧散したが、一番最初に抜いた胸の剣は真剣であった事から相手の強い憎しみが手に取るように理解できた。
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