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《一人でいい。》 「嫌じゃ。妾も行く…」  悪夢の後は全身が過敏になるようで、とにかく機嫌が悪くなるのが常だった彼の気をどうにか逸らそうとするが拒絶されてしまった。  溜息をついて立ち上がると中庭から繋がる庭園の方へ歩き始めたので、ミュカも少し離れて後ろを付いて歩き始めた。  少し冷たい風が庭の草木を揺らすと、二人の肌を撫でて止まる。ほんの少し、風がない間を置いてまた柔らかく風が吹いた。 《……風が痛い。》  段々と足取りが遅くなっていって、最後は立ち止まり呟いた。それはもしかしたら無意識に出たんじゃないかと思えるほど、小さな小さな声だった。 「傷に障ったのじゃろう。手当てせ…」  それに反応するか少し迷ったが、首の傷が気になっていたこともあってヤィデルの肩に手を置いた時だった。 ――パンッ 《もういい…触るな》  その手を払いのけた上に強く叩いて体を離し、これまでで一番強い拒絶を表した。その勢いで肩にかけられていたストールが地面に落ちてしまう。 「嫌じゃ。そなたの苦しみは妾の苦しみじゃ。痛みも苦しみも妾が負うから…」  不意の衝撃にバランスを崩して地面に座り込んだミュカは彼の拒絶をものともせず立ち上がると、ヤィデルを正面から抱きしめてそう言った。 《そんな言葉で宥め透かして、私を制御するつもりか?…たかが眷属の分際で!》  しかし激昂したヤィデルはミュカを跳ね除け転倒させ、彼女の腹を力いっぱいに踏みつけてグリグリと強く強く何度も詰った。 「っ!あ、ぐ…ッ」  それだけでは気が済まなかったのか、踏むのをやめて膝立ちになるとミュカの髪を掴んで頭を上げさせ、出会った頃のような暗い目で睨み付けて続けた。
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