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  風が吹いている。 君に届く風ならば、風に乗って君に逢いに行こう。 風が荒れている。 君に届く風ならば、君を困らす風ならば、壁になりたい。 冷たい風が吹いている。 君に届く風ならば、冷えぬように暖を持ち寄ろう。 暑い風が吹いている。 君に届く風ならば、熱で魘(うな)されぬように氷を持ち寄ろう。 風が吹いている。 私(わたし)と君の間を、遮る壁のように吹いている。 もし、もしも、生まれ変わる事が出来るならば、生まれ変わったら変えたかった事がある。それは、君に逢えた時に教えよう。 私と同じ時に、君も生まれ変わったら、再び逢える事を願おう。 生まれ変わったら、君は君でいて欲しい。何も変わらず、美しき君のままで …    ――――― …   『かなう様』 声が聞こえる。嗚呼、この声を知っている。わたしだから。 夢の中の、わたしは、誰かを思い哀しんでいる。愛しいと思っているのに、傍に寄り添いたいと思っているのに、いつも誰かに邪魔される。 『かなう様、』 逢いたくて、恋しくて、愛しい人。想う度に、姿見掛ける度に、声が聞こえる度に、影を追い掛けるのに。涙止まらなくなるのに。また、邪魔される。 わたしの前に立ち、壁のように、あの人の姿を見せまいと拒む。親し気に身の毛よだつ声で、わたしを呼ぶ男。逃げれば追い掛ける男。執拗に追い詰める男。 わたしは、逃げたくて。そう、夢は必ず同じシーンで終わりを告げる。夢の中の、わたしは、執拗に追い掛ける男を振り切る為、来世に逃げる為、命を投げ出す。崖から海に落ちる。そのシーンで夢は終わる。目覚めた時、わたしは必ず泣いている。  
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