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ぼくは覚えている。
その頃のぼくは、恋にも奥手で。だけど、武術は得意で。だけど、女性には不慣れで鈍くて。携帯小説に例えるなら、主人公気質で鈍感で武術や剣術に強くて料理が上手くて。でも、イケメンという柄(がら)でもない。たから恋に落ちても、女性の扱いを知らないから奥手だから、声をかける事も容易く軽々しく出来ない。堅物。そして、頑固者。勤勉で、日々何かしら学んでいて謙虚で年上年下関係なく敬語を使う。生真面目な人間。
常に、礼儀正しく背筋が伸びて、座り方も胡座か正座で。
今のぼくからしたら、古風な人間にしか見えない。
着衣に皺がなく、糊(のり)の効いたもの。
髪も乱れていなくて、常に麻紐のような紐で縛っている。
きっと、貴族か何かなんだろう。歩き方も乱暴な歩き方でもない。スタスタ歩くけれど、目は常に周囲を観察している。道端に咲いた小さな花を見つけては愛しそうに見ていたり、大きな荷物を持つ老人に手を差し伸べ代わりに荷物を持ったり、荷車を押し運ぶ者に手を差し伸べ一緒に荷車を押し運んだり。心優しい人間なんだろう。
その頃のぼくからしたら、今のぼくをどう見て、どう思うんだろう。知りたいような、知りたくもないような気持ち。
前世の記憶を覚えている。
意味があるのだろうか。それとも、何かのメッセージなんだろうか。
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