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小鳥のさえずり、まだらに映る木漏れ日。深い自然に包まれた世界。そんな幻想的な風景に写し出される二人の姿。
片方は少年、もう片方は少女。お互いの笑い声が反響するもののないはずの森に響き渡る。
「ねーちゃんねーちゃん!」
幼さを伺わせる声のトーンで、少女にしつこく問いかける。少女は軽くため息を吐くが、表情は非常に柔らかかった。
「なぁに?」
笑顔で問いかける少女に、少年は目を輝かせながら話しを始めた。
「おれさぁ、この木・・のぼれるようになったんだ!」
自慢気に木を指さし、ふんと鼻を高らかに鳴らす。
「大ちゃんすごいね!うわぁ・・高くてお姉ちゃんじゃ届かないよ~」
少女が漏らした感嘆の声を聞き、余計天狗になった少年は、急に木に手を掛けた。そして、大きな力を込める掛け声がリズムを刻むように聞こえてくる。
「大ちゃ~ん!あんまり無理しちゃ駄目よ~」
下から発する言葉に耳を貸さず、ただひたすらに掛け声とともに登っている。
しかし、大きな木だ。全長10mはあるだろうか。足置き場は、そこそこあって登りやすい。ただもし落ちた時の事を考えると、少々恐ろしい。
そんな心配を頭に浮かべていないのだろう。一生懸命な表情を見せている。一つ、また一つ手を動かし上を目指す。後1mほど登れば、木の頂点に一番近い枝に着く。
「よい・・しょ!!」
最後の掛け声は達成感と共に吐き出し、何かから解放されたのように清々しい表情だ。そして、何よりここから眺望する景色は格別とも言える。見える家々は、屋根でグラーデーションを彩り、日が高いおかげで海もくっきりと目に焼き付けられる。少年は暫く景色を眺めた後、急に手を空に伸ばし始めた。
「宇宙ってどうなってるのかな?なんで雲はあんなに動いてんだろ?・・ふしぎだなぁ」
少年は黄昏るように空を見つめ続けた。
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