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布団にこもる少年の耳に、小鳥のさえずりが微かに届く。
まだ垢抜けない顔をこすり、ゆっくりと身体を起こし、無意識にことばを放つ。
「夢・・・・だったのかな」
まだはっきりしない幻影のような光景。寝ぼけ顔の少年は暫く無言のまま硬直し、その後意を決したかのように身体を起こした。
「おはよう」
その一言で大吾は、昨日の出来事はゆめだったのだと確信した。目の前にいるのは、家事をたんたんとこなす母。その表情に笑顔はなかったが、くもっている様子もなかった。
「あら?意外と早かったのね。ご飯、出来てるわよ」
茶碗をとろうとすると、姉の茶碗が使われてない事に、大吾は首を傾げた。
「お母さん。お姉ちゃんは?」
母は短くため息をはく。
「昨日言ったでしょ。今日から修学旅行だって。もう家出たわよ。」
「・・あぁ」
夢から覚めたような顔で、いや夢か現実なのか判断できない表情をしていた。
「大吾も出かけてきたら?どうせ家にいてもする事ないんでしょ?」
皿洗いを終えた母は手を吹き、大吾の席のまえに座った。
「えー。そんな事言われても誰かいるかなぁ・・?」
すると、茶の間と台所を繋ぐドアが開く。
「・・おはよう。大吾。」
しばらく大吾を見つめた後に、思い出したかのように言った父に大吾もあっけをとられてしまった。挨拶のタイミングを失ったせいなのか不思議な沈黙に包まれしまった。重い空気を振り払うように父は意を決して大吾に話を始めた。
「なぁ・・、大吾。ほこらの所に行ってくれないか?」
ほこら・・。いま住んでいる神社が公用的に使用されている場所だ。だからほこらは先祖代々の秘蔵の場所だ
しかし先祖代々という割には、行き方はおろか、どこにあるのかすら分からないのである。
「場所はこの地図を持っていきなさい。」
父はあらかじめ用意していた地図を大吾に渡す。大吾は、若干感嘆の声を漏らし、すぐさま地図に記してあることを見た。
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