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「…あ、飛行機雲!」
耳元で声がした。
慌ててそっちに顔を向けると、大塚の横顔が、ホントにすぐそこにあった。
コイツはまた、無邪気に笑っていやがる。
ほっぺたが、ほんのりピンク色だ。
あと、まつ毛が長い。
「…何してんの」
「楽しいことならしてみたいなって」
「あっそ」
「うん。
ねえ、それより飛行機雲だよ!
すごーくくっきりしてる!」
大塚が指差した先には、白い一本の雲があった。
青い画用紙に、クレヨンでビーッと線を引いたみたいだ。
小さな飛行機が、私の視界を横切った。
あんなにゆっくり動いて見えるのに、どうして数時間で遠いところまで行けるんだろう。
走ったほうが早そうだけど。
子どもの頃は、そう思ってた。
足にだけは、自信があった。
スポーツも好きだった。
今は全然だけど。
「空を見てるのって、けっこう楽しいね」
「雲があるともっと面白いよ」
「ホント?
見てみたいなー…。
ボク、今度からこのまま動こうかな」
不覚にも噴き出してしまった。
仰向けのまま、一所懸命に進んでる大塚を想像したら、なんだか笑えた。
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