1/9
前へ
/42ページ
次へ

. 明日から、大塚が来る。 昨日のホームルームで、私たちの担任はそう言った。 大塚というのは、入学してすぐに不登校になってしまった男子生徒だ。 たしか、入学式の途中に倒れて、早退して、それから学校に来てないんだ。 二ヶ月も。 正直、顔はよく覚えていない。 担任に名前を出されて、そういえばそんなヤツいたかも、と思い出した。 そして、今日。 大塚は、転校生のように、担任に紹介されていた。 黒板に、白いチョークで大きく名前が書かれてる。 「…大塚拓也です」 彼は、ポツリと呟いて、すぐに担任の背中の後ろに隠れてしまった。 六月の下旬だった。 前日の夜に降っていた雨は朝には止んでいて、すっきりと晴れていた。 私は、大塚の紹介を聞き流して、窓の外をずっと見てた。 遠くの空が、うっすらと白い。 雲かな。 「じゃ、そういうわけだから。 大塚、お前、窓際のあそこな」 「はい…」 私の席の左隣が空いている。 そうか。 大塚は、ここに座るのか。 先月の席替えで、彼の席は窓際の一番後ろになったのだ。 空が見えづらくなるな。 ちょっと嫌だった。
/42ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加