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暗くて相手の姿はよく見えないが、声の高さからみて男性で間違いないだろう。
それよりも、道に迷っていたところで人に出会うとは、自分は幸運だ。
「・・・あの」
「なんだ」
「この辺に住んでいるんですか?」
「ああ。というより、アンタが行こうとしているアモーレに住んでる」
「えっ!?従業員の方だったんですか!?じゃあ、私のほかにも誰かそこへ行ったりは・・・」
「いるにはいるが、基本的に少ない。ひと月に一人来ればいい方だ」
「そ、そうですか・・・」
本当に、そんなところに行っていいのだろうか。もちろん、今更引き返すことなんてできない。本当は今すぐにでも帰りたいのだが、自分を心配してくれた友人と道を案内してくれているこの男性の親切を無下にはできないのだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
こんな状況だからあまり贅沢なことは言えないが、この沈黙だけはどうにかしてほしい。さすがにずっと話しかけるのはおかしいだろう。
ずっと続いていた沈黙だったが、それを破ったのは相手だった。
「着いたぞ」
「・・・ここが、アモーレ・・・」
案内された場所、アモーレは古い洋館だった。庭に植えられている植物は伸び放題で、建物の壁にはツタが巻き付いている。見る限りでは、とてもチラシを発行するような場所には見えない。というより、人が住んでいるように思えなかった。
「どうした、早く入れ」
「はいっ!」
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