ファイル№Ⅰ

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友人からチラシを渡されたのが3時間前のこと。チラシの場所へ向けて車を出したのが2時間前。そして、見知らぬ場所で迷っているのが――――――――――――今だ。 「・・・あーもう・・・・・・最悪・・・」 そう。自分は今、これまでにないくらい迷っていた。それも街はずれで、だ。 なぜこんなことになっているのかというと、原因は友人から渡されたチラシにある。 「恋の手助け致します、か・・・」 渡されたチラシにはそう印刷されていた。 別に、その言葉を真に受けているわけではない。少しだけ、本当に少しだけでいいから自分の背中を後押ししてくれる〈何か〉が欲しかっただけ。ただそれだけだ。 チラシには簡易的ではあるが地図がかかれていた。だから、カーナビで検索して行けるところまで行けばあとは簡単だろうと思っていた。そう油断していたのがいけなかったのか。先ほどから建物の場所を検索しているのだが全く見つからない。 「なんで見つからないのよぉ・・・」 外はもう暗くなっている。 道が分からなければ、戻る方法さえ分からない。民家のひとつでも見つかれば道を聞けるのだが・・・。最悪、野宿になるかもしれないが幸いなことに明日は休日だ。出勤日でなかっただけマシかもしれない。 ハンドルに額を押し付けて溜め息を付いた。 目的地に着くという簡単なことさえ出来ない。何をやってもうまくいかない。昔からそうだ。今だって・・・・・・。 その時、何か硬いものを叩いているような音が車内に響いた。 「・・・?」 顔を上げると、その音の正体が分かった。人だ。窓ガラスを手の甲で叩いている。 それが分かった瞬間、私は急いで車から降りた。 「あのっ、道に迷ってしまったんですけど」 「・・・どこかへ行こうとしてたのか?」 「あ、はい。そうです・・・」 「どこだ?知っている場所なら案内するが」 「ありがとうございます!えっと、アモーレっていうところなんですけど」 「・・・そこか。そこなら知っている。ついてこい」 「え、あの、車はどうすれば」 「そのままでいい。すぐに戻ってくる」 そう言うと相手は私に背を向けて歩き出した。
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