虚構から幻想へ

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虚構から幻想へ

――2XXX年、某日―― 「ただいま……」 楠ノ瀬伶也(くすのせれいや)はアパートの玄関を開けながら呟くようにそう言った。 もう習慣になっているものの、一人暮らしのアパートからは当然誰からの返事もない。 しかしそれを気にしたふうもなく伶也は靴を脱いだ。 あまり飾りっ気があるとは言えない部屋へと入り適当に卓上へ鍵を放り投げると、ベッドへと倒れ込んだ。 間違いなく整った顔立ちだった。 ある程度、健康的ながらも十分に白い肌。 そして伏し目がちな切れ長の瞳からは長い睫毛が伺える。 後ろで纏めた黒髪は漆喰のように艶やかだし、顎のラインは絵に書いたように細く整っている。 化粧っ気はないものの、逆にそれが元の美しさを際だたせていようだ。 だ が 彼 は ♂ だ 顔立ちはどう見ても女の子、いや女性である しかし黒い学ランをアレンジした制服は、ここから二駅いった所にある男子校のもので間違いない。 「…………はぁ……」 友達からは〝女より女顔〟だと揶揄される、それが伶也のため息の原因の1つだった。
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