虚構から幻想へ

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しかしそれは、いつもの事だ。 この憂鬱な気分を占める割合でいえば1割といったところか。 そう、たとえ他の生徒達から〝姫〟とバカにされても、上級生からマジ告白されてもいつもの事に過ぎないのだ。 伶也は寝転んだままベッドの横に置かれていたものを右手で掴み持ち上げる。 それは黒いヘッドギアだった。 ボクシング等で使用するものとは違い、外側は完全にプラスチックや金属でできており、内側にあるクッション部分からいくつかのコードが伸びている。 パっと見た感じはヘルメット、もしくは兜にも見えるこれこそ、仮想空間体感型ゲーム機〝フリー・アライメント・ヴィジョンズ〟 通称〝FAV(ファブ)〟である。 持ち上げたままFAVをゆっくりと右に移動させると、部屋の電灯がそれを照らし、まるで後光を放っているかに見える。 眩しさに僅かに眉を歪め、伶也は勢いをつけて起き上がるとベッドへと座り直した。 軍事や外交、一部の医療などに利用されていたVRが、ついに家庭用ゲームに登場したのは10年ほど前。 当然、それまで誰よりも待ちに待っていたのはゲーマー達だった。 仮想空間というまさにゲームをたしなむ者にとって長年の夢が存在しているにも関わらず転用されない。 そんな待ちに待ったという言葉では足りない苦節を耐え抜いたゲーマーたちの喜びようは、まさに狂気といっても過言ではなかった。
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