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サカルは海に面していて暖かい国であるためか、国の人たちは皆朗らかで陽気だった。森に囲まれていて少し気温の低い、厳格な騎士の国である祖国、カスティゴとは大違いだ。
とはいえハンスの言っていた通り、国の雰囲気は少しピリピリと緊張していた。特に夜の酒場などがそうだった。入国するのにも、ハンスの渡してくれた特別な入国証がなければ入れなかった。
潜入してから三日が経ったが、特にめぼしい情報が入ってくる訳でもなかった。
(今日はもう宿に帰ろう)
あまり夜遅くまでうろうろしていると怪しまれてしまうだろう。早く帰ってさっき購入した本でも読もうと思っていた。
「おねぇちゃん!」
・・・少女にタックルをかまされるまでは。
完全に気を抜いていたラースはタックルをかまされるままに前のめりにすっころんだ。
「おねぇちゃん、大丈夫!?」
栗色の巻き毛のなかなかにかわいらしい少女に顔を覗き込まれ、ラースは頷いた。
(・・・おねぇちゃんって、僕の事か)
別に女に間違われるのは初めてではなかった。むしろ小柄な体型のためか、高確率で間違われる(中性的な服と長い髪も原因かも知れないが)。
「大丈夫だ。君は怪我をしていないか?」
「うん!へいき!」
問題はラースは子供の扱い方が全く分からない事だ。エドワードならそつなくこなすのに。ラースは頭を抱えたくなった。
エドワードがいつも子供相手にしていた事を全力で思い出す。
そうだ、これも任務だ。任務だ。僕なら出来る。やるんだラース。
「えっと・・・名前はなん、ですか」
「ニーナだよ!」
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