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「なんだよそれ!?大仕事じゃん!」
「そんな事ない」
「いやいや、凄いって。俺にはできねぇもん。頑張ってな」
その日の夜、いつも通りの稽古を終えて部屋に戻ったラースは事の顛末をエドワードに話した。
エドワードはそれを聞くと目をきらきらと輝かせながら応援してくれた。
ラースがこのような仕事に就くのは初めてではないが、それ相応の緊張もある。やはり、戦場に出て剣を振り回すのとは訳が違う。
「で、いつから行くんだ?」
「出来るだけ早い方が良いって言ってたから、明日」
「・・・え?」
「・・・ん?」
いやいや、いくらなんでも早すぎるんじゃないんだろうか。エドワードは頭を抱えた。
「早くね?準備は?」
「そうか?準備なら終わっている」
ラースの指差した先には彼の少ない荷物をまとめた鞄が転がっていた。
「ああ、知ってたよ。知ってた。お前はそういうやつだよ」
エドワードは苦笑して頭を掻く。
「僕が居ない間、あんまりエリザベス様の所に通いすぎないようにね」
「うっ・・・」
ラースの咎めるような視線から逃れるようにエドワードは目を逸らした。
脳裏に柔らかな金髪が揺れる。同時再生でその甘やかな鈴を転がしたような声も聞こえてきた。
ああ。会いたいなぁ。
「おい、エドワード。聞いてる?」
「え、なに?」
「だから、僕の分の書類、ちょっとで良いから手伝っとけ」
「えぇっ!?」
涙目になるエドワードにラースは呆れたような表情になる。
「色恋にうつつを抜かすのはいいが大概にしろよ。怒られても知らないからな」
「・・・はぁい」
何となく、羨ましいと思った。
なんのしがらみもなく、仕事に集中出来るラースが。
「好きなやつが近くに居ないのも羨ましいよなぁ」
「エドワード」
ラースの声がずん、と重みを増した。
「怒るぞ」
「・・・ごめん」
ラースの翡翠色の瞳が一瞬黄金色に変わった気がした。
「良いよ。そんな怒ってないし」
嘘付け。そう言ったらまた機嫌を損ねかねなかったから黙っていたが。
「ま、仕事頑張ってこいよ」
「ああ」
笑顔で見送る事にした。
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