〈七月十九日(金) 晴れ〉

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そこにもう一人、少し甲高い声が滑り込む。水原と二人で振り返ると、さっきまで僕が息を切らしていた改札の前で、私服の男の子がやっぱり息を切らしていた。長めの髪に汗をいっぱいにかいているから、こっちも自転車で息せき切って走ってきたのだろう。 「みっちゃん!澪ちゃん!おはざす!」 「いつそんな言葉覚えたんだ」 「みっともないからやめてよね」 先輩二人から下品な挨拶をたしなめられて、ばつが悪そうに笑っているこの子は、名を越床貴浩と言う。僕より三つ下の、小学六年生。小学生らしく、後ろにはしっかりと黒いランドセルを背負っている。くりくりとした子供っぽい瞳の割に、実家が酒屋兼スーパーのせいか、やたらとお金には厳しい。水原よりも家は離れているが、最寄駅は同じだから、ここから一緒に電車に乗って通学している。 「そう言うみっちゃんも、さっき着いたところでしょ」 「どうしてそんなことが分かる」 「鍵かけてなかったもん。盗まれちゃうよ」 「あんなもの盗む奴なんていないさ」 「どうかなぁ。回収屋のおじさんに売れば、喜んで買い取ってくれると思うけどなあ」 早速始まった。言い返してやろうと思ったその時、ホームに機械的なアナウンスが響いた。ついでに 「二人ともその辺でやめ!」 水原の一喝が飛んだ。こんなやり取りも明日から当分はしなくて済む。
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