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七時五十二分、定刻通り電車は駅に到着。
「歓迎 川合温泉駅」と書かれた横断幕が、ここは温泉郷だということを嫌と言うほど主張しているが、こんな時間には温泉目当ての観光客はいない。ついでに言えば地元の人もいない。降りたのは僕たち三人だけだ。鉄筋コンクリートの高架橋の下に作られた駅は立派だし、改札を抜ければ広々としたロータリーがあって、そこからは大きなホテルも何軒か見える。東京にも名前の知れたちょっとした温泉街で、この辺のガイドマップには必ずと言っていいほど掲載される。僕たちの住んでいる地域とは大違いだが、それでも山に囲まれた場所なのは変わりない。駅から国道沿いに歩いて五分。夏らしい、眩しいほどの日差しに照らされた白い三階建の校舎が見えてきた。これが僕らの学校、川合小中学校だ。人数が少ないから、小学校と中学校とが一緒になっている。ついでに言えば、クラスも今ではたった一つ。
だから、夏休みを過ごすのは僕らが最後だ。
来年の春、この学校は町の中心部にある小学校と中学校にそれぞれ統合されることになっている。少子化の昨今じゃありふれた話だし、僕が入学した時には既に一クラスしかなかったから、いつそうなってもおかしくはなかった。けれどもまさか、僕の卒業と同時に無くなってしまうとは。今日は僕らにとっても、この学校にとっても、最後の一学期の終業式というわけだ。
校門をくぐって、三人で使うにはやたら広い昇降口を抜ける。中学生二人、小学生一人だけど、向かうクラスは同じだからずっと一緒だ。ついでに言えば、僕以外の二人はずっと言い合っている。
「澪ちゃんはあれだね。絶対いい男捕まえられない」
「小学六年生の言葉じゃないわね。生意気」
クラスの入り口には、普通掲げられるべき教室の番号を示す札はなく、ただ「教室」としか書かれていない。これで十分だ。他のやけに寒々した壁に比べて、一か所だけ壁新聞やら、掲示やらがベタベタと貼られていてにぎやかな教室が、僕たちの教室だ。ドアを開けると、改めてがらんとした教室が目に飛び込んでくる。それもそうだ。普通の三十人から四十人が入るべき教室に、並べられた机は五つだけだ。そのうちの一つが、もう埋まっていた。
「おはよう準。今朝は早いね」
「あ……おはざす」
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