〈七月十九日(金) 晴れ〉

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彼はちらっとこちらを見るや、首だけこくりと傾けてそのまま正面に視線を戻してしまった。座っていても椅子からはみ出す程の体の大きさ。貴浩は何度となく「まるで陣場山が椅子に座っているようだ」と評している、その大きな体を丸めて、今は読書に夢中の彼もクラスメイトだ。竪岩準。これでも小学五年生だが、下手をしなくても僕より慎重も体重も大きい。中学生の面目丸つぶれだ。体格はいいのに、性格の方は体に似合わず小心者で、かなりの人見知りだ。こうして挨拶できるようになるまで、数年かかったと思う。 「今何読んでんの?」 「あ、先週出た新しい本っす」 「……ラノベ?」 「……はい」 はい、が小さい。恥ずかしいんだろう。文庫大らしい本にはしっかりとカバーが掛けられている。カバーの下には、きっと美少女が制服姿で舞っているイラストがばっちり描かれているに違いない。準はラノベ……つまりライトノベルや、漫画や、アニメが好き――つまるところ、オタクなのだ。普段家庭では必死に隠しているようだが、僕たちの前では時々こうして読んでいたりする。ついでに言えば、僕も何冊か彼に借りている。 「学校じゃないと、家じゃなかなか読めないんで……」 「もういっそバラしちゃえばいいのに」 「そんなことしたら体の水分無くなるまで締め上げられますよ……」 力なく笑う彼の言う通りで、準の家庭は相当なスポーツマン一家で、こんな趣味を持っていることが知れたらどんなお仕置きが待っているのか、考えるのも怖いくらいのスパルタ一家だ。準がこんな体型なのも、両親による日々たゆまぬ鍛錬のお蔭なのだ。ひょろひょろの僕からすれば、それも天性の才能だと思うのだけど、隣の芝は青い。準からすれば、僕の家庭の方がよほど天国に見えるらしい。確かに僕も、毎朝スクワット百回だの、ジョギング十キロだのを欠かさずやれと言われたら、一日で音を上げそうだけど。 少し準と話している間に、最後のクラスメイトがやってきた。ガラッと扉を開けて、てこてこと自分の席に座った女の子。短めの髪を後ろで二つにまとめ、涼しげな水色のワンピースに身を包んでいるが、その顔は真っ黒に焼けている。あどけない顔だ。
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