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少年はこれから自分の通う学園を見上げる。趣のあるレンガで出来た校舎。周囲を囲むように群生している森。様々な技巧が施された魔法の数々。
少年は何かを確かめるように一度目をつむると、校舎下を抜け中庭へと進む。開けた広い中庭のその中央に二つの大きな銅像がたっていた。10年前の大戦で魔王を倒し、命を落とした英雄ディークと巫女アルティメラ二人の像である。有名な造形師によって作られたというそれは生前の姿を忠実に再現されていた。
少年と同じ新入生たちが、興奮した様子で銅像の前にたち記念撮影をしていた。国からの達しによって英雄を模った物の製作は許可が必要となっており、中でもここまで再現度の高いものはこの学園でしか見ることの出来ないものであった。銅像の周りをたくさんの新入生たちが取り囲み、情景の目で銅像を見つめている。
(くだらない)
無表情で彼らを見つめる。少年には彼らのような英雄への羨望というものはなかった。この学園に入学を決めた生徒のほとんどが英雄の学び舎であるということが決め手である。しかし少年にとってはそんなことは二の次であった。
少年には果たすべき目的があり、そのためには王国のトップに近づく必要がある。この学園はこの国で最高峰のレベルであり、成績優秀な生徒は卒業後かなりの地位が約束されている。また貴族の子息も多く通っており、目的のために権力が欲しい少年にとっては願ってもない環境であった。
(そうしなければ、奴のもとにはたどり着けない)
力だけではだめだった。それだけでは少年の望む結果が得られないとわかってしまった。
(力だけでは、奴に復讐できない)
復讐だけが今、少年の生きている理由なのだから。そのためには何を犠牲にしてもかまわないと少年は考えていた。しかし、それでも少年にとっては切り捨てることのできない希望があった。もはや願望と言っても変わりないそれは、偶然か必然なのか、この学園に入学したことで叶うかもしれない、という小さな光になってしまった。
少年は入学式にふさわしい綺麗な青空を見上げた。まぶしさで思わず目を細める。
(もし、あの人が元に戻ってくれたら、俺は)
彼はまだ、揺れていた。
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