第一章 邂逅

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 あちらこちらから新入生たちの興奮した話し声が聞こえてくる。きっと希望に顔を輝かせているのだろう。しかし、うつむく自分の視界には舗装された石畳の道が広がるばかりである。 『こーら!うつむいてばっかりいないで前向く』  友の声に恐る恐る顔をあげた。視界いっぱいに広がる人の波に軽くめまいを覚える。どこに顔を向けても人しかいない。唯一こちらを心配そうに見つめる友の顔だけが救いであった。 「やっぱり僕には無理なんだよ。こんなにたくさんの人がいる中で暮らしていくなんて」 『もう、ぐちぐちうるさい。決めたのは貴方でしょ。ほらしゃっきりする』 「ううう。そりゃそうだけど」  それでも初めてこんなにたくさんの人を見たのだ。少しくらい弱気になっても許して欲しい。 『早くしないと銅像見る時間なくなっちゃうじゃない。ほらほら』  急げと背中をせっつく。『英雄』の銅像は自分も前から見てみたかったので異存はなかった。いつになくはしゃいでいる友の姿に顔を綻ばせながら歩く速さを速めた。  この学園にある銅像は二人揃っている数少ない銅像の一つで、18年前のカラムの大勝利の出立前の二人である。このカラムの大勝利は、長い歴史の中人類が初めて魔族側に勝利したといえる戦争であり、勇者ディークはこれが初陣であった。そして見事選ばれし者にふさわしい働きを見せたらしい。  らしい、というは僕がまだ2歳で生まれてもいなかったことと、他の子のようにその戦争の記憶触媒を見たことがないためだ。残念ながら戦争に関する記憶触媒を持っておらず、僕は今まで見る機会がなかった。これらの情報は全部こういうことに並々ならぬ興味を持っていた目の前の友の受け売りである。友人が言うには一生のうち一度は見ておくべきものであるとのことだ。  そんな友人は記念撮影をする新入生たちにもお構いなく銅像に突進していった。目をきらきらさせて銅像の周りをちょこまかと動き回っている。 『見て見て。ジャーン!勇者のポーズ』 「いやいや、ドヤ顔でまねをされても反応に困るんですが。人が邪魔で僕からは君が見えないからね?」  子供のようにはしゃぎまくる友人。いや、まだ子供だけども。けれどもこの友人が入れば、なんだか学園生活も大丈夫な気がしてきた。
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