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「誰だ!」
叫ぶが反応はない。当たり前だ、僕の声は失われてしまっている。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだー」
再度、声がする。今度はさっきよりもはっきりと聞こえた。
どうやらこの声は幼い女の子のものらしい。
一瞬、さっき階段を駆け上がっていた少女のものかと思うが、辺りにそれらしい姿は見当たらない。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだー」
三度、聞こえる。
今度は大体の位置が分かった。この声は、ギイギイと不気味に傾ぐあの扉の近くから聞こえてきている。
開けっ放しになっているドアの向こう側に隠れているのだろうか、僕は手のひらに滲む汗をズボンで拭きながら近づいていく。
「だーるーまーさーんーがーこーろーんーだー」
抑揚のない、一定のリズムで吐き出されるその声は、不気味でさえあった。
風が吹いて、遠く投げ出されたが箒の柄がカラカラと動く。
僕は息を止めて、一歩一歩進む。
近づいてはいけない、見てはいけない、心の中ではそう感じているのに、身体は導かれるように無意識に動いていた。
カチ……カチ……カチ……カチ……。
何処かで聞いたことのある金属音。
ドアの傍まで近づくと、何か時計の秒針のように、等間隔で金属を弾く音が聞こえる。
どうする? 行くのか?
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