餓の章 神山兄弟

50/62
前へ
/312ページ
次へ
心の中で自問したところで、手はドアノブへと伸びていた。 ドアに手をかけて引く。 ギギギ、と鳴る耳の奥を劈く鉄の錆びた音。 段々と見えてくる扉の向こうの景色。僕はそれを見るが怖くて、目を細める。 眉の間から鼻筋へと、汗が流れた。 カチ……カチ……カチ……カチ……。 耳にこびりつくような鉄の軋む音の先、ドアの向こう。 『だるまさんがころんだ』という声は、確かにここからしていた。 カチ……カチン……。 けれど、いない。 意を決して見たドアの向こうには、誰もいない廊下の景色だけが続いていた。 「気の、せいか……?」 気づけば声も止んでいる。 あまりに非現実な状況に置かれたせいで、ついに僕の脳は幻聴まで聞くようになってしまったのだろうか。 カチ……カチ……カチ……カチ……。 それでも聞こえてくる、一定の拍子を取る金属音。 ちょうど十拍で区切られたその音で、それがメトロノームの音であることに気付く。 カチ……カチ……カチ……カチ……カチ……カチン。  
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11474人が本棚に入れています
本棚に追加