餓の章 神山兄弟

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時計の秒針とほぼ同じ長さで刻まれる音と拍。 僕が知っているメトロノームが本来奏でる速度と違うせいか、やけにゆっくりと長く感じた。 「だから、なんでそうなるのよ!」 メトロノームの音とは別、開いていたドアの中から女子の怒鳴り声が聞こえた。 外がこんな状況になっているというのに、口喧嘩が出来るというのはある意味平和なのかもしれない。 「お前はなんでいつもそうやって俺に立てつくんだよ!」 今度は男子の怒鳴り声が聞こえてくる。 一体、何のことで互いに喧嘩しているのかは分からないが、ドアも開けっ放しでいるのはまずい。 この学生寮には今、刃物を持った山本先生が徘徊しているからだ。 カチ……カチ……。 僕は中から鍵をかけてもらおうと、部屋の中に入る。 錆びたドアを鳴らしながら締めると、靴を脱いで上がった。 カチ……カチ……。 「あの、すみません」 聞こえないだろうが一応、挨拶をする。 どうやらこの部屋も僕達の部屋と同じ作りらしい。 カチ……カチ……。 玄関を進むとキッチンがあり、その先に二つの部屋があった。  
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