餓の章 神山兄弟

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「うっ」 それは―――――僕が想像するよりも、遥かに異常な光景だった。 「私は最初から校則を破るのは嫌だっていったのよ!」 育ちが良いのか、女子は背筋をすっと伸ばしながら強い口調でそういう。 しかし、おかしいのだ。伸びた背筋の先に普通なら首があり頭がある。 カチ……カチ……。 けれど、その女子の頭は胸の辺りまで首からぐにゃりと曲がり、ゆらゆらと振り子のように揺れていた。 カチ……カチン。 まるで、メトロノームの芯みたく左右へと。 「なんだ! お前だって誘ったときには喜んでただろうが!」 女子に続いて男子も叫び返す。 姿勢を崩している男子もまた、頭をもたげているのかと思ったら、同じように首から先が曲がっている。 「それは、わざわざあなたに合わせて喜んだふりをしてあげただけよ!」 カチ……カチ……。 叫ぶたびに首が音に合わせ揺れゆらゆらと動く。 首の骨をなくしてしまったかのように、皮だけが胴体と頭とをなんとかつなげていた。 こんな状態で人が生きていられるのだろうか。僕の頭の中で浮かぶ疑問。 カチ……カチ……。 振り子のように揺れる彼らの頭部。  
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