餓の章 神山兄弟

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頭の重さによってゴムのように捩れる皮膚。 ギョロギョロと上下左右に忙しなく動く目。 何もかもが日常にはない恐怖そのもの。 カチ……カチ……。 彼らは間違いなく生きている。 けれど、首の骨を失ってしまった彼らは、生物としての定義に当てはめるには、あまりに異常すぎた。 カチ……カチ……。 「もういい! 俺は出ていく!」 そういって男は立ち上がろうとするが、上手く歩き出すことはできない。 頭が下を向いて視界が反転している為か、歩行するという行動自体が困難になってしまっている。 「うお!」 案の定、バランスを崩して男は倒れ込む。それを見た女がわざとらしくケタケタと笑いながら言った。 カチ……カチン。 「ほら見なさい。こんな状態でこの先、生きていけるわけはないじゃない!」 口の達者な女の言葉は尚も止まらない。 「校則を破ったらいけなかったんだわ! タブーを犯してしまったから呪われたんだわ!」 カチ……カチン。 それが引き金だったのか、男子は無言のまま立ち上がると、荒々しい手つきでぶらさがった頭を手で持ち上げた。 「ちょっと! どこ行くのよ!」  
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