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男子は答えない。
ただ、自身の両手で頭部を以前あった状態に固定すると、僕の脇をすり抜けて台所へ向かう。
カチ……カチ……。
「あ、あの」
止めようと手を伸ばすが届かない。
男子は迷いもなく、真っ直ぐと台所に向かうと、シンクの下にある引き戸を開けて包丁を取り出す。
「やめてくださいよ!」
それを何に使うのか、容易に想像できた。
僕は男子の肩に手を置いて制止する。
「なんだよ!」
男子は制止した手を勢いよく振りほどくと、女子がいる奥の部屋に戻っていく。
その強さに吹き飛ばされ、僕は食卓にぶつかるとその上に乗っているものがぶち巻かれた。
「ん?」
男子は不安定な首を抑えながら、倒れ込む僕を見下ろす。
食卓の上に並ぶ醤油などの液体がテーブルクロスの上を流れていった。
カチ……カチ……。
「やめて、ください!」
必死に訴えるが、男子の顔が揺れている為、目を合わすことはできない。
揺れる顔に付いた二つの眼球は、グルグルと辺りを見回して僕の姿を探す。
カチ……カチ……。
「何よ、一人で大声出して」
奥から女がいう。
「知らねえよ、変なのに触られただけだよ!」
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