餓の章 神山兄弟

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こんな状態になっているというのに、男子は構わずに女子に向けて包丁をかざす。 女子も僕のことなど気にせず、目の前の包丁の刃に目を向けていた。 カチ……カチ……カチ……カチ……。 まるで彼らの世界に僕は存在していないように、彼らの時間は進んでいく。 その間も手の中で僕の腸の表面を這う血管はドクドクと脈を打ち続け、まだ生きていることをなんとか知らせていた。 カチ……カチ……。 「きゅ、救急……救急車……を」 言葉がうまくでない。 息を吸うことだけを意識して、ただ深く呼吸しようとする。 音のない世界で、男子は包丁を女の肩に突き立て、女子の顔がそれによって歪んだ。 カチ……カチ……。 「な……なんで……?」 気づかない。僕は此処にいるのに。 何故、二人とも僕のことを無視する。声が聞こえなくとも、他の人間はきちんと僕のことを認識していた。 「あ、れ……?」 認識、していた? 頭の中に奇妙な疑問が浮かぶ。 カチ…………カチン。  
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