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誰も僕を視認できないのは、僕という存在が彼らの世界から失われているから。
カチ……カチ……。
「ほら、どうだ? こんなになったってな、お前のことぐらい刺せるんだよ!」
遠く消えていた音が段々と回復する。
しかし、聞こえてくるのは男子の罵声と女子の悲鳴……そして、しきりに何かを訴え続けるメトロノームの金属音。
「痛い! 痛い! やめて! 痛い!」
赤く赤い鮮血が、粒となって床に散っていく。
男は一言一言、呪うようにして言葉を紡ぐと、その度に女を切りつけ続けた。
カチ……カチ……。
「だ……誰か……」
困難になる呼吸。視界は段々と輪郭を失っていき、ぼやけていく。
存在というかけがえのない唯一を失った今、僕に一体何が残るのだろう。
「死ね! 死ね! 死ね! 死ね!」
男子は首の骨を失いながら尚、頭をぶらりぶらりと揺らしては呪詛のようにその言葉を女子に刷り込む。
けれど、揺れる視界では正確に相手に深い傷を与えることはできない。
だから、男子と女子のやりとりは長く長く続いていく。ひたすらに、ただ。
カチ……カチ……。
「兄……さん……」
もう何ヶ月も呼ぶことをやめていた言葉を口にする。
やっと取り戻そうとしていたものを、僕は呟く。
「兄さん……! 兄さん……!」
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