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何かを失ってしまったからこそ、より強く感じ取ることのできるものを、僕は最後まで叫び続けた。
カチ……カチ……。
僕が死んでも、おそらく誰もそれを認知することはできない。
存在を失ってしまった僕は、この部屋の片隅で静かに朽ち果てていくだけなのだ。
死体となった僕は悪臭を放ちながら、長い年月をかけて白骨化し、その骨もいつか風化してなくなる。
誰にも知られることなく、無に還るのだ。
それは、なんて残酷なものなのだろう……考えて、絶望する。
カチ……。
「兄さん……!」
聞こえなくてもいい。届かなくてもいい。
ただ、そこに確かな絆があったという事実を、僕は叫び続ける。それだけは、失いたくない。
自分の死んだ後の世界というのものは、きっとこうなのだろうか。
自分という存在が死んでも世界は緩やかにその先を刻み続ける。
まるでそんなものなど最初からなかったかのように。
…………カチン。
男子の罵声と、女子の悲鳴。
そして、虚しく響くメトロノームの音の中、そんなことを考えながら、存在の失われた世界で僕は静かに瞳を閉じた。
第三章 神山…… 了
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