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男は手術台の上から叫ぶことと、黒目を泳がせ、この部屋の状況を確認することしか出来なかった。
「何でそんな物を持っている!? それに、ここは何処なんだ!? こ、こいつらは一体誰なんだよっ!?」
本来いるはずの無い場所。いるはずの無いモノ。
どれだけ記憶を辿っても何故このようなことになっているのかが思い出せない。
「――病院よ。もう1つの質問には答えられない」
「答えられない!? 本物なのか!? そ、そいつらは、本物の死体なのか!?」
茶色く染めた毛髪を振り乱し、恐る恐る、それでいて強い口調で問いただす。
20畳ほどの手術室に置かれた4つの手術台。その中の1つに青年が寝かされ、残りの3つには、肌を灰色に変色させ呼吸の様子すら伺えない人体が横たわっていた。
「――あなたには関係の無いもの」
零れ出す冷酷な答え。そして彼女は俯いたまま自らの手に握ったメスをゆっくりと男の胸元に翳す。
「お、おい……」
「――痛みは無いわ」
特に感情を込めるでもなく、また術衣に着替える訳でもない。
制服の上から発せられた生気の無い肉声だけが、冷房の風と共に男の耳を撫でていく。
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