11472人が本棚に入れています
本棚に追加
咄嗟に聞き直してはみたものの、正直、それ処では無かった。
下降しているのだ。刃を握る自らの手が。
「わわ、分かった、分かったから一之瀬!! こいつをどうにかしてくれっ!! 今までお前を馬鹿にしてきたことなら謝る!! 手が、手が勝手に動くんだ!!」
「――もう、止められないわ」
メスを握る男の肘がくの字に折れ、全身が小さく打ち震える。
「ふ、ふざけるなっ! 止められない訳がねえだろう!! 頼む一之瀬!! 早く俺の手からメスを取ってくれっ!!」
絶叫の先に彷徨う恐怖。大口を開け、過呼吸気味に訴える。
「――無理よ」
それでも冷徹な眼差しは変わらなかった。
「ひいいっ! 止めろっ!! 来るな! 来るな――っ!!」
男は決死の形相で腕に力を入れ自らの行為に抗おうとした。
友人を引き連れ罵り続けた過去を悔い、もう二度と彼女を罵倒しないと心に誓った。
しかし、どれだけ後悔を重ねても、どれだけの懺悔を上積んでも、決してその距離が縮まることは無かった。
そして遂には銀色に輝く鋭利な刃物、その切っ先が青年の皮膚を突き破った。
「うがあぁぁががああぁぁぁあああ――っ!!!!」
最初のコメントを投稿しよう!