堕の章 桐谷 涼太

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そんな武闘派の岩渕が何故、こんな所でこんな恐れをなしているのだろう。 「心臓を取られたら生きていられないだろ。何があったかは知らないけど、さあ、手を貸すから……」 するとその男は俺の手を払い除け、隠し持っていたビンのようなものを突き出したかと思うと、 「これが俺の心臓だ! 何も覚えちゃいないが、胸を切り裂かれたんだ!」 正気を失った形相でそう叫んだ。 「――えっ!?」 視界に映る奇妙な物体。透明なビンの中には、確かに心臓のようなものが収められていた。 「振り返ったんだ……、そ、そしたら……やられた!!」 「振り返った? もしかしてお祈り中に!?」 「――ああ!!」 背筋にひんやりとした寒気が伝う。それでいてTシャツの中でじっとりと滲む汗。 そんな相反する感覚を余所に、意識は男の左手へと吸い込まれていく。 「やられたって、誰に!? 何を!?」 「一之瀬 紗羅(いちのせ さら)、あれは呪いなんかじゃねえ!! 常軌を逸した女の仕業だ!!」  
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