堕の章 桐谷 涼太

10/73
前へ
/312ページ
次へ
「もう少し詳し……」 「ひいい っ! 見つかっちまう! あいつに、あいつに捕まっちまう!!」 そう言って岩渕は大事そうにビンを抱えると、血相を変えて走り出した。 「ちょっと待って!! まだ聞きたいことが!!」 背中に投げつけた呼び止めが裏口の向こう側へと消えていく。 一目散で体育倉庫を後にした彼の後姿は、もう何処にも見当たらなかった。 「何なんだ……一体」 父親とこの学校との関わりを知り、入学したばかりの進学校を捨てここに来た。 隔離とも思える山奥に建てられた全寮制の高等学校。 その中で日々目の当たりにする異常な風習と習慣。 皆が皆、存在するはずの無いものに怯え、不確かな存在を崇拝している。 間違いなくここには、何かが……隠されている……。 「……ん? 何だ、これは?」 視界に何かが映り込んだ。 薄暗い空間の中で置き去りにされた小さな物質。俺は乾電池ほどのそれを地面から拾い上げ見つめる。 「スイッチ……?」 単三電池を一回り大きくしたような形状で、鉄の上に塗った艶のある黒が映えている。 そして最上部には赤いボタンのようなものが存在し、それを押す為の機械であることはすぐに分かった。  
/312ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11472人が本棚に入れています
本棚に追加