堕の章 桐谷 涼太

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この体育館にエアコンは無い。 何かを操作する為の機械など必要無いことは明白だった。 「電気が点いたりして」 天井に設置された幾つものライトを眺めながら、「それはないだろう」とボタンを押す。 予想通り、明かりが点ることは無かった。それどころか、何の変化も感じられない。 「岩渕が落として行ったのか?」 もっともな予想を抱きながら、辺りを見回しカチカチと何度もボタンを押す。 やはり何も起きない。 それからバスケ部の朝練で汗を流し、ホームルームを終え礼拝の時間へと移り変わったが、あれから岩渕の姿は何処にも見当たらなかった。 教室の椅子に座ったまま、しばらく読み耽っていた六法全書を鞄にしまうと、ぞろぞろと皆が祭壇のある学生会館へと移動し始めていることに気付く。 そんな不可思議な光景を半ば他人事のように眺めながら、俺は窓際最後尾の席に座ったまま、昼間手にしたスイッチを小さく宙に浮かした。 風車のようにクルクルと回るスイッチが再び手元に戻って来た時、突然それは起きた。 「それ、何処で拾ったの?」 「…………」 一瞬、心臓が止まるかと思った。  
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