11472人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ、ああ……さっき体育倉庫で」
「それ私のなの。返してくれない?」
「一之瀬の?」
「そう」
クラスメイト数人が足を止め、まるで未知なる生物と遭遇でもしてしまったかのような目でこっちを見ている。
俺も正直、今自分に降りかかっている現実を上手く理解出来なかった。
――浮遊霊。クラスの皆が、陰で彼女のことをそう呼んでいる。
始めて見た時は、東京でも珍しく思えるほどに整った顔立ちだと思った。
化粧っ気は全く無いが、逆にそれが童顔である彼女の魅力を存分に引き出している。
同じ転校生の石川とは全く正反対の可愛さだろう。
それが、このクラスに来て最初に抱いた印象だった。
しかし、一之瀬の話を周りから聞けば聞くほど、そのイメージは儚くもひび割れていく。
まず彼女は誰とも交流を持とうとしない。それ処か全く口を開こうともしない。
透き通るような肌は徐々に青白く映り始め、細い脚も華奢としか思えないようになっていった。大きく綺麗な瞳、整えられた黒髪も同じだ。
ストンと腰まで垂らした髪の上から覗く2つの黒目は、いつも生気なく目蓋で覆われているように見える。
更にはこんな噂も耳にした。
「あいつは夜な夜な校内を徘徊している、まるで生きながら死んでいるような存在なんだ」と。
最初のコメントを投稿しよう!