11472人が本棚に入れています
本棚に追加
前に貸した消しゴムも無言で机に戻ってきた。
そんな彼女が誰かに話しかけている姿など、この学校にきて3週間、未だ1度も見かけたことは無い。
「一之瀬部活してないよな? 昨日体育も無かったし、それなのに何で体育倉庫に?」
「分からないわ」
薄く開いた唇の隙間からも一切の感情は漂わない。
「ちなみにこれって? 押しても何も起きない」
「……スタンドライトのリモコン」
「スタンドライト?」
「ええ、最近買ったの」
本来なら直ぐに返せば良いものをいつになく躊躇しているのは、 さっき岩渕の話を聞いたからだろう。
口を閉ざした彼女を前に、俺は少し考え、 違う角度から質問を重ねた。
「心臓が入った瓶、知ってる?」
じいっと瞳の奥を見つめる。
「知らないわ」
「体育倉庫で岩渕と会ったんだ」
「……そう」
「一之瀬のことを言ってた」
「…………」
ここで初めて一之瀬はぴくっと眉をひくつかせると、その後、 ゆっくりと俺に手の平を差し出した。
「礼拝まで時間が無いわ。早くそれを」
「ああ……悪い」
黒く無機質なリモコンを手渡しながら、疑いの眼差しで見つめる。
最初のコメントを投稿しよう!