流の章 石川 真利江

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【7月8日午前10時・保健室】 ボコ、ボコ、と気味の悪い音で、私は目を覚ました。 耳のすぐ傍で聞こえるその奇妙な重低音は、定期的に、まるで脳を揺らすような振動を伴いながら、何度も響いている。 「何なのよ……」 その不快さについ独り言をぼやきながら眠気の残る重いまぶたをこじ開けると、視界に見慣れた無機質な天井が広がる。 ここは私がこの学校で一番長い時間身を置いている、保健室だ。 上半身を起こすと、頭がグラリと前方に揺れる。 ──酷い頭痛だわ。 最初は、そう思った。元々偏頭痛を持つ私にとって頭が重い感覚なんて珍しくもなく、ただ今日は特別酷いなと、その程度だった。──のに。 立ち上がって保健室の入り口にある手洗い場の前に立ち、鏡を見た瞬間。 思考は完全にストップしてしまった。 ボコ、ボコ、ボコ。 鏡に映ったのは、その音と同調するように自分の頭が〝成長〟していく姿。 これは現実ではない。一瞬で、そう判断した。 そう、これは夢でもう少ししたら覚めるのだと。 けれど、鏡に映る自分の姿は、起きてどんどん覚醒していく意識に比例するように鮮明さを増して行く。  
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