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霞は、笑いながら泣いていた。
「……けど、あろうことか、あたしはあなたを本気で愛してしまった……!」
俺は彼女の頬を平手で叩こうと、霞に一歩歩み寄った。
「いい加減に……ん?」
足元に、何かが。真っ黒な。髪?
「うあ、ひっ!」
俺の足元には、1人の女がいた。
化け物真利江や霞とも違う、第3の女だった。
シルエットは痩せ細り、闇に溶け込んでいたためか、今まで気付かなかった。
俺より遥か年上。50歳くらいだろうか。
髪の毛が伸び過ぎている。
「ああ……喉が渇いた」
砂漠のように乾いた声だった。不意に1年3組の掲示板を思い出す。
「あ、あんたまさか……ヤマモト、アイコ……か?」
女は口をポカンと開け、不揃いな黄ばんだ歯を見せ俺を見上げていた。
「お願い。水をちょうだい。……あなた、名前はなんていうの?」
「いっ、泉澤順次」
「そう。……それで名前は?」
「え、はっ? き、聞こえてないのか?」
髪の間から見える唇は、乾ききっていた。
「ねえ、お願い。水をちょうだい。喉が渇いて仕方がないの」
PHSのボタンを押しても光は灯らない。……電池が切れてる。
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