11473人が本棚に入れています
本棚に追加
呼吸を整えながら、涙目の彼女は最後に言う。
「……ねえ、あたしの涙、拭いて?」
──俺はドライヤーを口にくわえ、霞の髪を乾かしていた。
口からはよだれがポタポタと落ちた。
霞の髪が乾いたころ、彼女は俺のベッドから立ち上がり、俺を抱えて台所に立った。
「じゃあご飯にしよっか? 今日はジュンくんの好きなカレーだよ。包丁で指を少しだけ切っちゃった。
けど、痛みを返してくれてありがとう。それに、カレーってこんなにおいしいのね、初めて知った」
霞はスプーンですくったカレーを自分の口に入れ、クチャクチャと噛んだ。
そして、ゆっくりと首をななめに曲げ、綺麗な鼻先を俺の顔に近付けた。
「ま、アッ」
……口移しで運ばれたカレーは、匂いも熱も味もなく、霞の唇の感触もなかった。
完
最初のコメントを投稿しよう!