火の章 美藤 祐

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何度も紐を引っ張ったが、カチッという手応えはあっても、明かりは点かなかった。 ……おかしい、昨晩は電気が点いた。 俺は同室の寮生を呼んだ。相変わらず返事はない、トイレにでも行ったのだろうか。 この暗さはまだ深夜に違いない。 不快感に耐えられなくなった俺は、左目を強く擦った。 そのとき、普段と違う感触を覚えた。 ……今、まぶたがべコッて。 そして指の間に何かが入り込んできた。片面はブツブツし、もう片面は妙にツルツルしている。 油っぽく、ゴソゴソと動く細い手足。 これは虫……ゴキブリだ。 「うっわ!?」 俺は、掴んでしまったそのゴキブリを突発的に投げた。 不快な羽音が部屋に響く。 「クソッ、クソッ! 最悪だ!」 同時に両目を強く擦る。 ……バイ菌とか大丈夫か。早く目をすすぎたい。 指で触れたまぶたが、薄いゴムのようにヘコむ。 ……目が、目玉の感触がない。 おかしい。目がオカシイ。 これって病気なのか? けど、そんな病気、聞いたことない。  
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