炭の章 山本 愛子

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【7月8日午前11時・教員寮502号室】 ──喉が、乾いた。 眠りから醒めたばかりの上半身を無理矢理起こしながら、無意味に喉を掻く。 ミネラルウォーターのストックはあっただろうか。 もし今無ければ確実に苛々は倍増するだろう。 立ち上がろうと横に手を付き、ふと考えた。 ──何故私はこんな所で寝ていたんだろうかと。 手を付いたのは畳。ベッドどころか布団も無い。只の和室だ。 首を捻り一瞬動きを止めるが、凄まじい喉の乾きに再度手に力を入れる。 しかし、力を入れた瞬間、強烈な目眩に襲われた。 「ん……」 喉の奥からかすれた声が漏れる。 目眩の後には頭痛と吐き気が容赦無くやってきてまたも動きを止めようとするが、喉の乾きが、もう深刻に、限界だ。 結局両腕を使い足を引きずるように移動を始めるが、またもやってきた吐き気の波に、反射的に片手を口へ当てる。 「あっ……あぁ……がっ……!」 ──何、この臭い……。 胃の中からドロドロしたものを吐き出しながら、自分の手から発する臭いに頭がパニックになった。 この臭いを、私は知っている。 この、鼻の奥に突き刺さるような鉄の臭いは──。  
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