炭の章 山本 愛子

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「血……」 手のひらに黒くこびり付いているのは、間違いなく血液だ。しかも、大量の。 頭で理解するよりも早く、全身が震えた。両腕で自分の身体を抱き締めるように包み、深く息を吸って、吐く。 ──なぜ、血が? 何も、思い出せない。 心臓は相変わらず激しく鼓動しているけれど、呼吸のリズムを規則的に、かなり強引に、整えてゆく。 1、2、3 無意識に呼吸の数を数えながら、ゆっくりと両腕に込めた力をほどく。 すると気味が悪い程、荒れた心が真っ白に、穏やかになった。 そして、同時に頭の一部がぎゅうと締め付けられる。この感触は、なんだか気持ちがいい。 ──あれ? 私、今何をしてたんだろう。  
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