炭の章 山本 愛子

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     * ──そうだ、喉が乾いた。  まるで嘔吐した後のように喉が痛む。酷く不快だ。 ──あら? まるで嘔吐した後のように。そう考えた自分自身に、わずかな違和感を持った。 しかし深くは考えず、喉の乾きを優先させる。 ミネラルウォーターのストックはあっただろうか。もし今無ければ、面倒な事になる。 私が飲む水は、アレでなければならないからだ。二駅先の薬局にしか売っていない、アレ。──アレ。 ──名前、なんだった?  もう何年も飲み続けているのに、思い出せない。 怠い身体を必死で動かし、膝を使って歩きながら冷蔵庫へ向かう途中で、ついバランスを崩し無意識にダイニングテーブルのクロスを掴むと、クロスは何の抵抗も無く滑り落ち、同時に数枚の封筒が床へ散らばった。 〝山本愛子様〟 ──山本愛子? 誰、それ。誤配かしら。 封筒をテーブルの上へ放り投げる。それにしても、さっきから自分の中の何かがおかしい。 一旦座り込んで、不思議な違和感の正体について考えてみる。 が、しかし。今度は、そもそも何に違和感を感じていたのか、途端にわからなくなった。  
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