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──そうだ、喉が乾いた。
まるで嘔吐した後のように喉が痛む。酷く不快だ。
──あら?
まるで嘔吐した後のように。そう考えた自分自身に、わずかな違和感を持った。
しかし深くは考えず、喉の乾きを優先させる。
ミネラルウォーターのストックはあっただろうか。もし今無ければ、面倒な事になる。
私が飲む水は、アレでなければならないからだ。二駅先の薬局にしか売っていない、アレ。──アレ。
──名前、なんだった?
もう何年も飲み続けているのに、思い出せない。
怠い身体を必死で動かし、膝を使って歩きながら冷蔵庫へ向かう途中で、ついバランスを崩し無意識にダイニングテーブルのクロスを掴むと、クロスは何の抵抗も無く滑り落ち、同時に数枚の封筒が床へ散らばった。
〝山本愛子様〟
──山本愛子? 誰、それ。誤配かしら。
封筒をテーブルの上へ放り投げる。それにしても、さっきから自分の中の何かがおかしい。
一旦座り込んで、不思議な違和感の正体について考えてみる。
が、しかし。今度は、そもそも何に違和感を感じていたのか、途端にわからなくなった。
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