炭の章 山本 愛子

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考えながら手を頬に当てると、強烈な鉄の臭いが鼻を刺激する。 「……!」 ──そうだ、血だわ。 今日の私は、なんだかおかしい。 まるで脳みそごとえぐり取られたかのように、思考が不安定だ。 ついさっき血を見てあれほど混乱したのに、一瞬でそれを忘れてしまう。 ──ん……? 血を見たのは、さっきだった? 額に気味の悪い汗が滲み、頬を伝う。不快だ。 そして同時に脳の一部がぎゅうと締め付けられた。      * ──ああ、喉が乾いた。 ミネラルウォーターのストックはあっただろうか。あの水でなければ、私は潤わない。 あの……、あの、水。もし無かったら──。 ──あれは、どこに売ってるんだった? ふと冷蔵庫の方を見ると、床に無造作に3本のミネラルウォーターの瓶が放置されていて、わずかな安堵感が生まれる。 ──良かった。あるわ。 ……でも最悪。冷やしていないなんて。 冷蔵庫に捕まりながら立ち上がり、中にも入れてないだろうかとわずかな望みをかけて重たいドアを開いた瞬間。 「え……?」 中には同じ銘柄のミネラルウォーターの瓶が隙間無く詰め込まれていた。  
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