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「いつの間に、こんなに」
冷蔵庫に詰め込まれた水の瓶には深いグリーンのラベルが特徴的で【aspiration】と書かれている。
フランス語で〝憧れ〟という意味だ。
瓶は真ん中が少しくびれた流線型で、それは女性の身体を思わせる。〝憧れ〟と呼ぶのにふさわしい、とても、美しい水だ。
そっと触れて、瓶の表面の感触を指で感じていると、なんとも言えない懐かしい感覚が頭の片隅をよぎった。
──そう、これは、私の水。aspiration。
──aspiration? そんな名前だったかしら。
──誰よ、こんなにも買い込んだのは。
頭の中で複数の人間が口論をしているような感覚に陥る。
急激に、不安なのか恐怖なのかわからない複雑な感情に支配されて後ずさりすると、冷蔵庫の扉は重たい音を響かせ、閉じた。
「私、変だわ」
独り言を言うと、女にしては少し低めの声が誰も居ない部屋に反響する。
そしてその時突然身体がバランスを崩し、背中をダイニングテーブルに派手にぶつけてしまった。
封筒が床にひらりと落ちる。
【山本愛子様】
瞬間、脳の一部がぎゅうと締め付けられた。
──誰? それ。
何故だろう、封は開いている。指を入れて中身を引き出すと、丁寧に折られた3枚の便せんが入っていた。
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