炭の章 山本 愛子

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「ひ、人殺し……!」 男はうなるようにそう言うと、突然、私に掴みかかってきた。 勢い良く体当たりして私を壁へ追い込むと、両手で首を絞める。 「があっ、あっ!!」 すごい力だった。そこには迷いなどひとかけらも感じられない。 視界は次第にグレーに淀み、かすんでゆく。 「……っ、く くる し」 私はもしかしたら、死ぬのかもしれない。 死ぬ瞬間をこれまで何度も書いてきたけれど、実際はこんなにも、地味であっけないのか。 ──あら? 書いてきた って。 ──誰が……、いつ? 【だ、る、ま、さ、ん、が、こ、ろ、ん、だ】 ふいに、遠くから歌が聞こえた。 さっきからずっと何一つわからないのに、遠くなった意識の中、かすかに聞こえるこの歌を懐かしく感じるのは何故なんだろうか。 男の指は、喉に食い込んでいる。苦しさと痛みは秒毎に増してゆく。 【だ、る、ま、さ、ん、が──】 今度は、途中で止まってしまった。 喉に爪を立てられどうしようもないくらい苦しいくせに、途中で止まった気持ち悪さが気になって仕方が無い。 ──〝こ、ろ、ん、だ〟でしょう?  
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