炭の章 山本 愛子

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私は無意識に続きを歌った。 すると今度は心臓あたりが、ぎゅうっと締め付けられる。 そして、それと同時に首を絞める男の手から伝わる体温、震え、息づかい、皮膚に触れる湿気を含んだ生ぬるい空気、視界に映る目の前の男の額の汗一粒すら的確に表現出来るほど、心が冷静になっていく感覚を覚えた。 ──なに? この感じ。 それはまるで心を機械に置き換えられたような、無感情な冷静さだ。 私は、必死な形相で首を締め上げる男を冷静に見ながら、とにかく、何もかもはこの男を片付けてからだと、そんな事を淡々と考えた。 視界の端には、玄関に立てかけられた傘が映っている。 そうだ、あれを使えばいい。 傘に手を伸ばす私の動きは、芸術と言える程に落ち着いていて、華麗な動作だったように思う。 〝彼女の殺人は、あまりにも華麗だ〟 ふと、どこかでそんな文章を見たような気がした。 「は、は、あはハハハ」 「この女……、なに、笑って……がはあっああ!!」 力いっぱい傘を男の背中に突き立てると、先端が思い切り男の背中に突き刺さった。  
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